2012年9月14日金曜日

「母(オモニ) 」  姜尚中(かんさんじゅん)


                                              平成24年9月5日(水)
by Eiji.K

◇ 戦後直後の全てが破壊され、なにもなくただ食べるだけの混乱期に、“在日”
  という更なるハンデを負った家族の物語は、その時代を知っている者でしか分からない「貧しさ」の実態がよく表現されていると思う。

◇ 個人的には、昭和20年代に住んでいた近所に「屑屋」を職業にしていた子だくさんの家族があり生活苦の状況を思い出す。

◇ 映画「三丁目の夕日」にあるように日本が高度成長期になっていく明るさや懐かしさがノスタルジーとして見直されているが、虐げられた底辺にあった人達の貧困は当事者にとっては相当に過酷な生活であったと思う。

◇ 自伝的小説であるこの本は、両親、特に母親の逞しさが素晴らしく、字が書けないためにテープで思いを伝えた逸話が感動的である。

◇ 先祖や親族に対するきずなの深さと宗教的な儀式への実態がよく出てくるが、歴史的に韓国では身近な人の死に対する慟哭等は風俗となっており、普遍的である。あのように感情的になるのは儒教などの影響があるのだろうか。韓国の歴史ドラマでもよく出てくるシーンである。

◇ 両親の民族性と自分の住んでいる国・故郷との葛藤については、今までにアメリカにおける戦前からの移民(1世)と日本への従軍(2世)問題や日本へ強制移住された(1世)とその子供たち(2世)の在日問題、更に朝鮮での北と南の分断への対立など当事者たちの苦悩は体験しないと分からない大きな問題であると思われる。

◇ 梁石白(ヤンソギル)の小説にそれらは詳しい。

◇ 現在、我々は上記ような苦悩を体験しなくてよい境遇にあるが、中東・アフリカ等での移民発生や民族間の戦争が常に発生している世界情勢の中で、そのようにならない努力を日本の先人たちがしてきた結果である。今後もいかに継続していけるかが現在の我々の責務であるといえる。   以上

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