2013年6月5日水曜日

「解錠師」  スティーヴ・ハミルトン

平成2565()
 by Eiji.K

◇ 2011年のアメリカ探偵作家クラブエドガー賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞等の受賞作品であり、日本でも宝島社の2012年“このミステリーがすごい”と週刊文春のミステリーベスト10で各々第1位となっている作品である。したがって、長編小説であるが一気に読める面白さがある。

◇ アウトローの世界には、特に男性は一種の憧れを持つ傾向がある。
主人公は根っからの悪人ではなく、誠実な人物であり、解錠師という技術を持っていることから犯罪に巻き込まれるという経緯になっており、自分が経験できない未知なる危険な世界を垣間見るという正に小説を読む楽しさを十分に与えてくれる本である。

◇ アメリアという少女との恋愛青春小説の面もあり、読んでいてアウトローによくある暗さや惨めさを感じないところがよい。

◇ 構成が素晴らしい。時間軸が2面(解錠師としての仕事の推移と解錠師になる修行の経緯)より交互に描かれ最後に一致するという手法は作家としての知性を感じる。

◇ アメリカの市民生活、特に高級住宅街のパーティー開催の日常性や貧民階級のアウトローの世界が身近に感じられるのは作者の力量なのだろう。

◇ 最後の場面で主人公が刑務所から出所し、恋人に言葉を発しようとしたいとするなど、ハッピーエンドがほのめかされていることがよい。

◇ アメリカ人は資産を金融機関に預けるのではなく、自分の家で金庫に保管するというのが一般なのだろうか。解錠師という特殊技能を持つ者が存在するということになると、金庫や錠前で身を守るということができなくなってしまう。その存在は、社会の安全性を根底から崩すことになるものである。日本では、金は金融機関に預けるということが前提であるのでその不安は少ないが。
以上

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