平成27年4月1日(水)
by Kumiko.O
【蛍川】
① 竜夫という子供の目線で作品ができているが、竜夫の母の千代に魅力を感じた。作品の中に、具体的な千代の容姿に関する描写がない。その分、千代という人物への想像力をかき立てられる。
② 具体的には、
千代は金沢の「田村」という料亭の女主人の誘いで勤めるようになった。芸者でも仲居でもなく、女主人の補佐として帳場に座ったり、芸者の手配をするのが仕事だったが、千代は売れっ子の芸者よりも人気があった。千代が黙って傍らに座っていればいい、もう芸者を呼ぶことはないと笑い合う客に囲まれて・・・。(p105)
③ 子供である竜夫は、大変良い子に描かれている。思春期の心のうちが良く描かれていると感じた。特に惹かれたのは、
重竜の指はしっかり竜夫のベルトを握りしめて離さなかった。重竜は泣いていた。子供のように泣きながら竜夫を引き寄せて、その腹に自分の顔をこすりつけた。竜夫は恐ろしかった。自分にしがみつき、身を捩(よじ)って泣いている父から、一時も早く逃げていきたかった。
④ 重竜は、魅力のある男性だったと思われる。
・・・その純毛の外套は、誰もがしばらく見つめるほど鮮やかな鶯色だったが、精悍(せいかん)な体と切れ長の鋭い目には不思議に良く似合った。
⑤ 何も無いことの幸せの描写に共感した
このまま病院に行かず・・・・閑散とした映画館のなかで、眼前の物語に心をこらしながらスルメをしがんだりしていることが、なぜかとてもしあわせのことであるように思えて仕方がなかった。
【泥の川】
① 作品には色彩があると思う。前回の中上健二の小説がどろどろした血のような赤を感じた。それは彼の「路地」出身という出自(しゅつじ)の血が大きく影響していると思う。
② 泥の川の作品の色はヘドロのような土色なのかと思って作品を読んでみたが、この作品は色より匂いが強烈に印象に残った。その匂いは信雄少年の目を通して描かれている、むせ返る白粉の匂いだった。この作品もやはり子供(信雄)の目線から描かれているが、私が魅力を感じたのは舟で暮らす親子の母親に惹かれていく少年のである。
部屋の中にそこはかとなく漂っている、この不思議な匂いは、霧状の汗とともに母親の体から忍び出る疲れたそれでいてなまめいた女の匂いに違いなかった。そして信雄は自分でも気づかぬまま、その匂いに潜んでいる疼くような何かに、どっぷりとむせかえっていた。信雄は落ち着かなかった。と同時に、いつまでもこの母親の傍らに座っていたかった。
その他
どちらの作品が好きかと問われれば、最初「泥の川」を読んだ時これが良いと思い、次に「蛍川」を読んだらこちらも良いと思った。それぞれの世界観があり興味深かった。
備 考
「泥の河」文学碑は、平成23年6月に建立された、比較的新しい碑。
周囲には何もないちょっとさみしげな一角にポツンとあるのですが、この辺りは、泥の河の作者、宮本輝が幼いころ住んで、泥の河の舞台となった場所でもあるということ。ちなみに、泥の河は太宰治賞を受賞した作品。昭和30年の大阪。社会の底辺で暮らす人々を描いた。
(ネット 街歩き「姫路から心斎橋」 http://4travel.jp/travelogue/10938617 より)
by Eiji.K
泥の河
◇ 戦後すぐの大阪の下町の日常描写が目に浮かぶようであり、この作者の表現力の確かさ
が素晴らしい。特に、母親が廓舟という姉弟の悲しい境遇が上手く描かれている。(美し
い姉が無口で働き者であることや弟のいじらしさと狂気など)
◇ この小説の映画化されたものを見ているが、印象に残っているのは晋平役の田村高廣の
手品シーンと信雄と加賀まりことの出会いシーンである。カラー画面でなく、白黒画面で
あったことが時代背景を暗示していて相応しく思えた。映画としては名作であったと思う。
なお、大きな鯉は出ていなかったのではないか。
◇ 「馬のおっちゃん」と「沙蚕取りの老人」が亡くなったことが出てくるが、この当時は、
身近に人の死はどこにでもあったことが書かれている。人間の身近な死は生活する上で人
との距離を近づけ、人間関係が密にならざるを得ないことになっていたのではないかと思
う。現在は、医療技術の発展もあり、人の死を遠避け、隠すことが一般的であるが、人と
人との関係を希薄化させていることになっている面もある。
蛍川
◇ 純文学という言葉がある。最近の小説には廃れてしまった感があるが、宮本輝の初期の
作品は、自然描写や庶民の貧さや哀愁表現、感情の機微などで人の暖かさ、懐かしさ、郷
愁のようなものを感じる。それ故かこの作者の作品に一時没頭した時期があるが、最近の
作品はその輝きが亡くなっているように思われる。
◇ 蛍川は映画化されていたが、見ていない。あまり評判にならなかったからだろうか。
◇ 最近、蛍の飼育に携わっていることにもよると思うが、小説に出てくる蛍はゲンジボタ
ルかヘイケホタルなのかとの興味がわく。
◇ 作中で千代が通行人の着ている着物の表現について”何度も水をくぐったものであるこ
とはひと目で分かった”と書いてあるが、これは着物が色あせているとのことか。
以上
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