2015年7月2日木曜日

「64(ロクヨン)」  横山秀夫

平成27年7月3日(水)
by Eiji.K

◇ 2012年「週刊文春ミステリーベスト10」及び2013年「このミステリーがすごい!」で第1位になっており、読み応えのある小説であった。

◇ 上下2冊の長編小説なので読書会としては2ヶ月間が必要かなと思ったが、当方は一気読みで、1週間で読んでしまった。最近一気読みしたのは久しぶりである。それほど内容が濃く、展開が凄まじく変わりすぎるきらいがあるが、この作者のストーリーテラーは素晴らしく、大変面白く読めた。

◇ 作者は「クライマーズ・ハイ」で日航機墜落の地方新聞社の内幕を描いたが、今回は警察の広報官という立場である。いずれも現場経験をしたものでないと描けない臨場感があり、この作者が地方紙(上毛新聞)の記者であった経験が十分に生かされている。

◇ 14年前の事件であり、犯人として落とせるのかどうかや三上の娘(あゆみ)の今後の展開など、「64」の続編も十分小説として可能なのではと思われたが、
 ⇒NHKのテレビで「64」が放映されたが、上述のことが完結されていた。
  ・翔子ちゃん事件の犯人が自供したとの新聞報道記事がテレビの最後に出ていた。
  ・三上家に娘のあゆみのものと思われる電話がかかってきたシーンが一番最後に出てきて、期待を抱かせる結末となっていた。
 ⇒映画化された時、上述のことをどう表現するのか楽しみである。

◇ この本の読ませるポイントは警察組織内の諸々の軋轢・パワーゲームの実態とそれへの対処の仕方の個々の判断の見事さである。すなわち、現場部門(刑事部)と管理部門(警務部・広報室)のすさまじい対立、広報室と記者クラブ各社のせめぎ合い、広報機能のあり方への齟齬(役所と民間)、キャリア(赤間部長・本庁)とノンキャリアの力学関係、同期入社の出世競争や昇進・人事異動への不満(二渡と三上)、未解決事件(64)への思い入れの軽重など様々なテーマとなるものが縦横に交錯・重複し、作者の言う化学反応が読み応えとなっていると思う。

◇ 上記の軋轢・パワーゲームは、社会人として何らかの組織に属していれば程度の差はあるが、同様に思い悩み、対処してきているのが現代のサラリーマンの世界である。

◇ 主人公の三上は、仕事を通して上記の重厚な世界にいるだけでなく、別の課題として家庭での妻や娘の問題があるわけで、このような状態がずっと継続していけば必ず何らかの病気になってしまうのではないかと思われる。

  当方としては、定年を境にサラリーマンの世界から離れることができたことはなににも代え難い安寧・安楽を覚える。



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