2015年11月4日水曜日

「横道世之介」   吉田修一

平成27年11月4日(水)
by Eiji.K

◇ 初めの部分は一昔前の大学生の青春謳歌の話しであり、少し前に同じような時代を経験した者としては共感する部分もあるが、柴田錬三郎賞の対象や本屋大賞第3位となるところは何なのか理解できなかった。

◇ 後半になって、世之介が人助けの事故で亡くなったことが出てきて日常の楽しかった出来事は一瞬の過去になり、かけがえの無い時間になっていくことがわかり、その対比がこの小説の良さなのかもしれない。しかしながら、だからといって普通の大学生の生活を美化する事にはならない。

◇ 平和な学生生活だけでなく、少しヒリヒリした部分がないと読み応えがなく感じられる。

◇ 恋人であった祥子が世之介の故郷である長崎の海岸でフィリピンからの難民に遭遇し、そのことの影響であると思われるが、卒業後の仕事として国連職員になり世界を飛び回っていること、及び世之介が報道カメラマンとして成功していたことが出てきて、救いとなっている。

◇ ただし、祥子にとってそれだけインパクトがあったと思われる世之介との関係が後年、ほとんど忘れられているような設定は少し不満である。

◇ 倉持と阿久津唯に子供ができ、子育てのために大学を中退し、社会人として生活を始めるが、後年の場面で生活に疲れた部分が出てくるが、若気の至りの代償が大きかったことは現実的なリアルさがあってよかった。

◇ 良かった語句
 ・アパートの隣人の京子に「上京してきた頃より隙がなくなってきた。」と言われている。→大人になることは隙だらけ部分を埋めていくことでもある。
 ・自分は誰かを傷つけたことがあるかと自問するシーン
  →誰かを傷つけたことがないんじゃなくて、傷つけるほど誰かに近づいたことがないというフレーズはよかった。

以上