2016年1月6日水曜日

「空気」 と 「世間」   鴻上尚史

2016年1月6日

by Tsutomu.I

²  LINEなどに囚われている子どもたちを見て、何としてもこの一言「1日に何十通ものメールを交換する必要なんかないんだ」、「ネットの書き込みには逃げろ」を伝えたいために、自分達を取り巻いている「世間」と「空気」を分析した本だと理解した。

²  空気を読めの「空気」とは「世間」が流動化したもの
自分に関係のある世界=「世間」、本音、歴史的伝統的システム
自分に関係のない世界=「社会」、建前
の分類はよく理解でき、日本人のマナーの解釈は面白かった。

²  壊れてきた地域社会の再構築のヒントはないか?
支えは欲しいが、出かけて知り合いに会うことが少ない都会の解放感、自由に慣れているので、村八分のある世間には戻れない。ならばどうするか?

²  地域共同体から地域社会へ
日本では「世間」は一神教の代替として機能することで人を支えてきたが、壊れてきたので、「世間」を頼らないで、ほんの少し強い「個人」になって社会で生きよう。
同一性を求める「世間」ではなく、多様性を認める地域社会をつくろう。そして、複数の共同体にゆるやかに所属するのが現実的な解になる。

²  お笑いにも使われ、気楽に口にする「空気を読め」の影響が子どもたちに拡大することの危うさを感じた。「空気を読む」とは多数派に迎合することにつながり、第2次世界大戦は、ヨーロッパでも日本でも空気に振り回された結果起こったものと理解することができ、この危険性は今も変わらず存在していると感じている。自分の息子は「空気を読めない」のか、「空気を読まない」のか区別がつかないが、それでも生きられる個人の強さと多様性のある社会(diversity)を育てたい。

²  同一性を信じるより多様性を喜ぶ社会になって欲しいとの願望が作者にある
人は支えてくれるものとして「世間」=古き良き和の日本 を求めるのだが、それはもう壊れて元には戻らない。何故なら、世間からはみ出す、快適さや自由を知ってしまったからで、苦しくても世間原理主義者には戻らない覚悟がある。

²  今でも「個の強さ」より「世間」に依存することが少なくない日本では、格差社会がひどくならないようにする知恵が求められていると感じた。


by Eiji.K

書かれている文章表現は平易で分かりやすいのだが、微妙な差異や違いを指していることが多く、ストレートに入ってこない感じがある。あとがきに中学生・高校生に読んでもらいたいとあるが、彼らに正確に内容を理解してもらうことは無理ではないかと思う。頭が良すぎる人の文章である。内容を理解するには2度読みが必要であった。

◇ 世の中の出来事・事象を「世間」という切り口で、その歴史や現状をみるという視点は初めてのことであったので新鮮に感じた。また、その視点からの分析は鋭く、「目から鱗が落ちる」と感じる部分が多かった。
 世間=自分に関係ある世界  社会=自分に関係ない世界

◇ 世間の5ルール
◯ 贈与・互酬の関係
  ・強盗の理由は借金を返すため。
  ・バレンタインの義理チョコ(会社という世間に認められるため。)
  ・訪問時の手土産
  ・中元、歳暮
◯ 長幼の序
  ・先輩、後輩の関係
 ◯ 共通の時間意識(所与性)
  ・先日は有難うございました。今後ともよろしくお願いします。
  ・親子心中
  ・会社残業、飲み会
 ◯ 差別的で排他的
  ・部落差別
  ・クラス全員が無視するいじめ
 ◯ 神秘性
  ・しきたり、伝統、儀式

◇ 西洋における世間
 キリスト教の告解行為等により世間が否定され、個人が生まれた。(12世紀以前には世間が存在していた。)欧米人は1000年前に世間がなくなり全ての人が社会の人となったので社交術が身についている。(レジでの頬笑み等)
  彼らにとって神は絶対であるが、神以外は全てを相対化できる。(ディベート)

◇ 世間がゆるやかに崩れてきた理由は都市化と経済的・精神的グローバル化である。
 ・村落共同体は経済的に生き延びるための人間の知恵であった。(集団の農作業等)
  ☆農村では構成員の嫁取り、婿取りは未来の労働力確保として大切な経済行為であった。
 ・地域共同体社会は経済的に濃密に繋がる必要がなくなった。
  ☆地域共同体社会になってもその記憶が残っていた。
 ・地域共同体社会が崩れても「会社」が世間を支えていた。
 ・会社=終身雇用・年功序列が崩壊し世間が崩れ始めた。
 ・理想の父親像をマスコミの発達で子供たちは知ってしまった。
  (親、教師等の権威は失われていった。)
 ◯ 個人であることの明快さ、世間のルールを破ることの快適さを知ってしまった現在では、後には戻れなくなっている。

◇ アメリカは猛烈な格差社会
  ・日本とは比べられないほどの厳しい格差社会を生き延びているアメリカ人は、自分を支えてくれる神がいるから可能なのである。宗教がセーフティーネットとなっている。

◇ 世間はセーフティーネットの役割があり、制約や規制があっても守るべきもの、従うもの、大切にするものとして存在してきた。その世間が崩れてきたのでその一部である空気で支えて欲しいと思うようになった。→共同体の匂い→常に多数派の意見を気にし多数派の決断に従う。
  家族にセーフティーネットを頼る人もいる。→振り込め詐欺の悪用

◇ 人は不安になった時、原理原則に戻る。→古き良き和の日本(世間原理主義者)→共通の仮想敵を攻撃することが必要になる。

◇ 世間が崩れていく中では今後は社会に出て行くことが必要。→複数の共同体にゆるやかに所属すること。

◇ 大人とは世間と社会の振り子を積極的に楽しみながら生きていく人である。

◇ 自分にとって、定年後の生活が居心地がよいと感じるのは会社という世間から離脱した結果なのだということが腑に落ちた。また、現在、複数の共同体に所属していることも心地よさの理由なのだということも理解できた。


以上



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