2016年2月3日水曜日

「満願」  米澤穂信

                                             平成28年2月3日(水)

by Eiji.K

〇夜警
 ◇ 暴発した拳銃の弾丸の発覚を恐れ、それを隠すために警官が発泡する細工をするという設定は非現実的である。いかに小心の警官でもそこまではしないのではと思ってしまう。
 ◇ 拳銃の取り締まりが厳重なのは知っていたが、弾丸まで管理が行き届いている日本の警察の緻密さは特に外国と比べると賞賛に値する。

◯ 死人宿
 ◇ 遺書を落とした宿客を探すという設定が面白い。
 ◇ 2年間も待って自殺しようとする人は、遺書を宿で書くのではなく予め書いておくほうが自然ではないかと思う。
 ◇ この後の二人の関係について“私の背中に手が置かれる。温かく、柔らかい手が。”とあり、復縁の感じが期待できてよい。

◯ 柘榴
 ◇ 両親が離婚することを知った思春期の少女が、父親を男として独占するため美しい母親や可愛い妹に罠をかけることや、近親相姦の匂いなど、大変恐ろしい短編である。
 ◇ 離婚した場合の子供に対する親権は、母親が養育する能力がない場合や母親が子供に虐待することがある場合以外は母親が親権を摂ることが今の日本の現状であるが、高校生がそれを理解し、上記の罠(虐待)をかけるという設定は不気味である。

◯ 万灯
 ◇ バングラディシュでのガス田開発の状況描写は非常にリアルで現実性を感じさせる。
 ◇ 最後の追い詰められた場面は違和感がある。森下の死体が発見されれば状況から裁かれることになるが、成田空港での検疫検査はあったものの、バングラディシュでコレラに罹患した、または、森下に会い、森下から罹患したが森下がどこに行ったかはわからないと突っぱねることで逃げとうせることは可能ではないかと思われる。

◯ 関守
 ◇ この場合も、プロットに少し無理がある。4年前に作られた「ぐるりマップ」の石仏がその後、首が折られていたことが判明しても、娘が高田太志を殺したことに結びつくとは考え過ぎである。また、事故遺体の検死で睡眠剤の検査は通常実施しているのではないか。
 ◇ しかしながら、この短編の最後になって、4件の事故が実は殺人であり、それを知った主人公も5件目の犠牲者になるという設定はおどろおどろしくて面白い。しかも、主人公の先輩はそのことを薄々感じていた設定もよい。

◯ 満願
 ◇ 借金のかたに家宝である禅画をとられることを防ぐために殺人をするという設定はやはり違和感を感じる。
 ◇ 禅画に飛び散った血と座布団に残された血の跡の軌道が一致していたという描写は警察の科学捜査(刺された肉体から飛び散る血の角度や量)では見破られるのではないかと思う。
 ◇ この小説全般に言えるが、状況描写・表現の巧みさは素晴らしく、力量がある作家だと思う。(苦学生の司法試験を受ける心理状況や畳屋の流行らない理由、夫婦の関係、妙子の矜持等)


以上


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