2016年6月1日水曜日

「朝鮮と日本に生きる」  金時鐘

                                              28年6月1日(水)

by Eiji.K

◇ あとがきに「済州島4.3事件」等の年譜にあるものを参考にして書いたとあるが、88歳でこのような綿密な史実を述べることができること自体驚異である。

◇ 動乱等の混迷した歴史を正確に記述しようとすると事実の積み重ねが必要になるが、その分、第三者には非常に分かりにくい内容になってしまう。特に左翼(社会主義・共産主義の流れ)と右翼との抗争は日本の終戦後の混乱でさえ正確に把握することが厳しく、ベトナムや東欧での凄惨な抗争も未だに十分に整理されていない。

◇ 大国(米・ソ)が絡む韓国での済州島での冷戦にかかる軋轢を把握することは、まだ、相当の歴史的検討期間が必要とされるのではないかとも思うが、作者のような暴動を起こした側からの記述は貴重な証言になると思う。

◇ 済州島から日本への脱出は、島にいては殺戮の嵐の中で生きていけないことによるが、現時点で話題になっているISによる戦争状態からトルコ・ヨーロッパに脱出するしかないシリア難民は同じ状況になっているのだろうと思われる。

◇ 日本は植民地下で生きたことがないが、その実態は大変な困難さ・貧困・理不尽な扱い等が常に生じるし、更に、祖国から亡命して他国で生きていくという試練についても体験・経験しなければわからないことが沢山あると思う。

◇ 1945年の朝鮮の解放後の混乱期(ソ連とアメリカの冷戦構造、社会主義の思想闘争、金日成と李承晩等)から結局朝鮮戦争になるのだが、同じ時期の日本は復興のみに専任できた違いは何によるのだろうか。
   日本の幕末時期、帝国主義の列強国は日本人の教育水準の高さ、勤勉さ等から植民地にすることは無理であると考えたとの話もあるが、日本は、島国という地政学的な条件に恵まれていたことによるのだろう。

◇ 作者の在日の友人として梁石日が出てくるが、作者の詩集、梁石日の小説等日本人にとっての共通媒体があることが彼らの想いを知ってもらうことに有効であったと思われる。                      

以上

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