2016年12月10日土曜日

「収容所から来た遺書」  辺見じゅん

平成28127()

by Eiji.K

  私の「シベリア抑留」というイメージは、極寒の中、過酷な重労働により栄養失調や過労でバタバタ死んでいった捕虜達の悲惨な話ということであったが、その詳細な実態を読んでみると、実に様々な出来事や状況があったことを知ることができ、これも読書することの良さの一つである。

  この本にも出てくる瀬島龍三について書かれた山崎豊子の「不毛地帯」で瀬島龍三は功成り遂げた晩年、シベリア抑留の会報作成を最後の仕事として続けていたことが書かれていたが、体験者には忘れることができない重い経験であったのだろうと思う。

    権力による基本的人権の侵害事例としてシベリア抑留では民主運動による密告、理不尽な裁判、監獄生活が出てくるが、特に共産圏でこの流れは絶えることなく変わらず、歴史的に東欧諸国、特に有名なのは東ドイツでの秘密警察シュタージ、中国での文化大革命等があるが、いまだに北朝鮮等では現存することに憤りを感じる。

    中国では満州国時代に作られた建造物が現存しているが、シベリアでも捕虜たちが作らされたものが今でも残っているのではないかと思う。

    日本人は故国から離されて他国で望郷の念を思うということを建国以来経験していない(アメリカ移民、ブラジル移住等希望したものはあるが。)。強制連行されたシベリアは日本とは全くかけ離れた自然環境であり、9年間も過ごせばその思いは一層強くなるだろうが、日本は、そのような経験をしにくい海で囲まれた国であるとともに、現在のシリアのように国が内部分裂し、国の運営ができなくなるようなことを避ける知恵と知見と努力を先人たちが力を合わせて勝ち取ってきた歴史があり、国としての誇りであると思う。

    山本幡男の遺書をみんなで分担し、記憶して家族に伝えるという結束力、団結力を引き出したのは山本幡男の尊敬できる人格・能力の賜物であり、彼の逆境に強い意志の強さの結果なのだろう。


    解説で、吉岡忍は「人間の本質的な不思議さは、ひょっとしたら(山本幡男が持っていたような)この夢見る能力にあるのかもしれない。」と感じたといっているが、同感である。そうした能力を発揮できるためには、優れた状況判断力、鋭い洞察力、高い教養等の資質に裏打ちされたものなのだろうと思う。              以上

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