2017年3月1日水曜日

「嵯峨野明月記」 辻邦生

平成29年3月1日(水)
by Eiji.K

◇ 文庫本としては字が小さく、空白や段落がないのでなかなか進まなく、読みにくいので読み終わるのに時間がかかった。

◇ しおりを落とした場合、どこまで読んだかが分からなくなり、読み始める場所を探すのに苦労した。

◇ 嵯峨本のような美術工芸品に疎い身としては、格調が高く、なじみのない世界なので入りにくかったが、芸術作品に携わる人たちの熱意や考え方に触れることができ、歴史の重みのようなものが感じられた。

◇ 日本の歴史の中で小説等で最も題材として扱われているのが戦国時代と幕末・明治維新であるが、その扱われ方は英雄などの歴史勝者の視点からのものが圧倒的に多い。この作品は、職人という庶民側の立場から歴史を見ており新鮮さがある。

◇ 信長の本能寺から関ケ原までの歴史はそれまでの日本人が経験したことのない激動期であったことを示唆している。関連して、第二次世界大戦の敗戦後の日本の高度成長期は後の歴史から見ると日本人の考え方、家・家族主義、地縁・血縁、自然とのつながり、風俗・習慣等を一変させた戦国時代の激動期と同じぐらいの変化であったと見られるのではないかと想像した。

◇ 万(ま)城目(きめ)学の「プリンセス・トヨトミ」という本で、大阪人はいまだに太閤を慕い、崇めているという内容が書かれていたが、辻邦生の本からも秀吉が実施した大茶会、花見、朝鮮征伐等の影響は大阪人や関西人に与えた感動が大きかったことを読み取ることができ、政治・経済・文化の中心は関西であったことを改めて感じる。

◇ 優れた作品を後世に残すという生への充実と自然に同化するという悟りのような境地に入れた本阿弥光悦、芸術作品を完成できた俵屋宗達、事業家として世のため人のために貢献できた角倉素庵、このような人たちがその後の文化・芸術分野における日本人の模範として受け継がれているのだろう。


               

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